『池袋ウエストゲートパークⅥ 灰色のピーターパン』 石田衣良

灰色のピーターパン 池袋ウエストゲートパークVI (文春文庫)

灰色のピーターパン 池袋ウエストゲートパークVI (文春文庫)

 石田衣良は今最も好きな作家の一人。時代を映したシビアな描写と意表をつく展開、ユーモア、希望が心地よい割合でレシピされている。
 エンターテイメントとして存分に楽しめるし、心に残る登場人物、セリフは、時に生きる力を与えてくれたり、よりよく生きるためのヒントを示唆してくれる。
 作家ならば物語構築力は誰にでもあるかもしれない。彼がすごいのは、それに加えて、さまざまな舞台設定の下、自在の文体で、さらには極上のセンスをもって描写できることだと思う。作品を読んでいると、常に彼のセンスに触れているようで、読んでいて気持ちがいい。
 そして、そのセンスというのは、この『灰色のピーターパン」の巻末に収められた吉田伸子さんの解説にあるように、「物事にフラットに向かうということが基になっていのだと思う」。ぼくも同感。フラットであるということは、言い換えれば、先入観を持たずに真摯に物事に取り組むことだ、と思う。クレバーになり切れず、また時に不運であっても、いかにフラットな姿勢で物事に取り組めるか、それがよりよく生きるための一つの道筋なのかもしれない。