小三治、さん喬、権太楼

 週末の16日(金)、今年最初の寄席、新宿末廣亭に行く。6時過ぎに着くと、1階席はすでに満席。かろうじて空いている座敷席に割り込むようにして坐る。間もなく立ち見が出るほどの大入り満員となった。  
 出演者は、主任の柳家小三治をはじめ、橘家円蔵三遊亭金馬柳家権太楼、昭和のいる・こいるなど、そうそうたる顔ぶれ。ぼくの好きな太神楽もある。

 席に着くと、ちょうど権太楼が始まるところ。豪華客船でのインド洋クルージングの噺(もちろん仕事、だそうだ)。パワフル&スピーディーで面白い。客の笑い声で沸きに沸く。

 もうすぐ80歳の金馬。親友2人が、互いに妻に電話をさせて(自分は決して直接出ない)、相手とおかしく張り合う噺。軽い噺で悪くはないが、できれば古典が聞きたかった。

 昭和のいる・こいる。眼鏡の“のいる”が普通にしゃべって、「すいません、すいません」の“こいる”が適当な言葉で相づちを打つ。「しょうがねーや」とか「はいはい」とか「まあそんなもんだ」とか。ただそれだけ。それなのに聴いてしまう。分かっていても笑ってしまう。 
 円蔵の登場。「待ってました!」の声。正月ということで客のリクエストにこたえ、「猫と金魚」。後から調べると、この噺の作者は「のらくろ」で知られる漫画家の田川水泡。正直、噺自体はたいして面白くはなかったが、聴いていて気持ちいい。円蔵の風格、庶民的な親しみやすさと粋。金馬同様、やはり今度は古典が聴いてみたい。 
 お中入り後は、去年同じく末廣で初めて観て感動した太神楽。こちらも正月ということで、めでたく寿獅子。短い時間だったが、寄席に合う上品ないい芸。
 春風亭一朝は「十徳」。先日の末廣での「幇間腹」同様、可もなく不可もなく、ソツなくまとめた感じ。どうも好き嫌いなのか、さっと聴き流すように聴いてしまう。
 柳家小袁治は「紀州」。粋が垣間見えるような感じ。もっとスピーディーに演じればその粋が控えめながら効いてくると思う。
 予定の古今亭志ん駒が休みで、膝代り(寄席で主任の前に出る芸人で、通常、色物)の林家正楽紙切り)が早くも登場。客との交流によって成り立つ寄席ならではの芸で、まさに至芸。客からの注文は「川中島」「相合傘」(これは前に池袋で観た)「僕と猫が遊んでいるところ(?)」。僕と猫…の注文なんて、いいのか(笑)。

 そして、もう小三治なのかと思いきや、なんと、柳家さん喬の登場。去年、池袋で「おせつ徳三郎」に感動し、前回末廣で楽しみにしていたときは休演でがっかり。興奮してひときわ大きな拍手で迎える。他の観客も大喜びで異様な雰囲気。聴くと、7時35分に池袋を終えて、こちらに向かい、着いたときには正楽師匠がもう始めていたところだったという。
 噺は「真田小僧」。子どもの演じ方が絶品。話し方だけでなく表情や姿勢、さん喬全部が子どもになる感じ。しかし、膝代りということで、噺は早めにサゲて(講釈の描写前でサゲ)、踊り「なすかぼ」を披露。さん喬の踊りまで観られ、幸せ気分を味わう。

 いよいよ真打、小三治。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介されたのを観て以来、CDを聴いていたが、どうも好きになれなかった。ぼくが最も好きな落語家、立川談志は直接観客に語りかけるようにして話す。パワフルさからまるで一人ひとりにジカに話すような感じさえする。それに対し、CDで聴く小三治は、まるで高座の横にだれか架空の人がいて、その人に話しているのを観客が聴いているような、そんな距離感を感じていた。
 しかし、寄席で聴くと違う。寄席にいると、高座と自然に一体感が生まれるのでそんな距離感はまったく感じない。むしろ、卓抜した粋を感じて、憧れるように聴き入る。噺は「小言幸兵衛」。じっくりと入り、いつのまにかスピーディーに。粋なんだけれどもいつのまにかドヤドヤと。小三治の噺を旋律に表すことができれば面白いのに。サゲ手前の心中の宗旨のところで真言が出てきてマンダラを唱えた時の表情には思わず拍手が出た。聴けてよかった、観られてよかった。

 今回の末廣は最高でした。