『アントニオ猪木自伝』猪木寛至著

アントニオ猪木自伝 (新潮文庫)

アントニオ猪木自伝 (新潮文庫)

 ぼくは1972年生まれ。物心ついたときは、新日本プロレスの「ワールドプロレスリング」のファンだった。最も古いはっきりとした記憶は、猪木VSボブ・バックラウンド戦。猪木がキーロックを決めたところ、バックラウンドがそのまま猪木を抱え上げ、トップロープまで猪木を運ぶ。ロープブレイクで離れる間際に、猪木の胸の辺りをパンパンと軽く叩いて、後ろに下がる…。たぶん、ぼくが小学生のころのことだろう。

 藤波のジュニアヘビーの時代、人間山脈アンドレジャイアント、すでにウエスタンラリアットで一世を風靡していたハンセンとアックスボンバーのなかったころのただの筋肉マンの弱いホーガン、なぜか気になるヤマハブラザーズ、どうみても弱そうなヒロマツダと猪木の抗争、ローランドボックのスープレックスマサ斉藤のバックドロップ、かませ犬に近かった長州が強くなったこと、佐山タイガーとダイナマイトキッドの戦い…。

 この本を読む前に、心に浮かんだ素直な気持ちは「どこまで本当かはわからないけど、きっと面白いはず」というもの。猪木はプロレスの一線を引いた後、政界進出、その間の花を持たせてもらったような勝ち方や、スキャンダル、借金問題と、ぼくが抱く猪木のイメージが汚れるようなことが目についていた。しかし、いつも何か時代を画すようなことをしようとしていた。だから、「怪しげだが、間違いなく魅力的」というイメージを、ぼくは猪木に持つようになっていた。

 この本は、確かにどこまで本当かはわからないと思う。ただ、猪木の生きざま(本当かどうかは関係ない)・考え方は、直感的でまっすぐである。無謀であるがゆえに様々な難題を抱えながら前に進む姿は、馬鹿かもしれないがやはり魅力的である。

 IWGP戦でハルクホーガンにアックスボンバーで失神させられたとき、猪木は糖尿病を患っていた。そうだったんだ…。

 「道はどんなに険しくても、笑いながら歩こうぜ!」

 巻末に記された猪木からのメッセージである。