『水滸伝』北方謙三著

水滸伝 19 旌旗の章 (集英社文庫)

水滸伝 19 旌旗の章 (集英社文庫)

 6月27日(金)、『水滸伝』を読み終えた。
 将来、自分の子どもにぜひ読んでほしい。小学生ではまだ早いが、大人になるまでにはぜひ読んでほしい。そして社会に出て、家庭を持ったら再び手にとってもらいたい。
 「学ぶ」とは、いわば「理屈」を理解すること。しかし、理屈を理解するだけでは身につかない大切なことがいっぱいある。それは、生き方にあらわれる。生き方という、その人の全体像であらわれるから、何が違うのかが分かりにくい。 ただ、「感じる」ことはできる。何か違う、どこか違う。
 人とつきあうことでそれが発見されたり、気付くことがある。その人の生き方の一部に具体的に触れることができるから。いいな、素敵だな、面白いな、そう感じたら真似る、自分なりに動く。すると、いつの間にか何かが身につく。例えば、「センス」なんかはその何かの一つだろう。だから、人と接するのは楽しいし刺激的だし、一方で、疲れたりおっくうに感じるのだ。

 この作品は、さまざまな登場人物からさまざまなことを思い、感じさせてくれた。感謝の意を込めて、印象に残った登場人物にメッセージを記したい。


林沖(豹子頭):「男」の生きざまを教えてくれた。強さだけでなく、幼い揚令や腑抜けの単廷珪への接し方、妻の張藍を救出に向かったこと

揚志(青面獣):「男」の最期について身をもって示してくれた。「父を見ておけ、その眼に、刻みつけておけ」

魯達(花和尚・魯智深):人の志を喚起させ、生き返らせる。人と人を結び付ける。清濁あわせのむ。豪放磊落と深い静けさ。生命を産み出す海のような、厳しくも、包み込むような広さ。

訒飛(火眼狻猊):根性について教えてくれた。魯智深、柴進の救出

陶宗旺、孟康:「強み」について教えてくれた。石積みの技術、物資調達の技術

呉用:あなたには、公孫勝のことばをそのまま贈るのが何よりの感謝のことばとなるはず。「人知れず漢(おとこ)を貫く。そんな人間もいる、ということだろう」

杜興:理想的な性格の人ばかりが組織を率いることができるのではない。というか、組織を率いることと、理想的な人格とは別であることを教えてくれた。弱さも強みになることに気付かせてくれた

ほう旭、馬麟:普通の人材は、どう動けば優れた人材に近づけるか、あるいは相対することができるのかを教えてくれた

解珍、揚春:二人の旅は、「成長」について教えてくれた。感じることにより成長すること

史進九紋竜):人生の縮図をみせてくれた。若いとき、成長したとき、そして林沖が死んだ後の成熟したとき

公孫勝:「非情さ」の大切さを教えてくれた。林沖との関係はうらやましく感じた

蕭譲、金大堅:地道な仕事がなければ、何も築けないことを教えてくれた

安道全:偏屈でも何でも、自らの技術に殉じるほどの覚悟で、仕事に向かう姿勢は尊い

武松:男のもろさと、それを克服した男の静けさを教えてくれた

李逵(黒旋風):人生において最も大切なことに、改めて立ちかえらせくれた。素朴な感じ方、親、家族を大切にすること、おいしく食べること、理屈上のよしあしだけで判断しないこと

鄭天寿:最期の戦で見せた「覚悟」と、その後の「優しさ」。人生とは時に残酷だが、それでも、あなたの生きざまの美しさに変わりはない

秦明、韓滔、彭玘:老将が役割を全うすることについて手本を示してくれた

朱どう:「闘い抜く」とはどういうことかを教えてくれた

樊瑞:人には向き・不向きがあること、向いていることは、理想像的な枠の中にあるとは限らないこと

穆弘:気骨あるすがすがしさ、というものを見せてくれた

侯健:普通の人間が志に生き抜くことのつらさ、難しさと尊さを教えてくれた

盧俊義あなたがいてこそ梁山泊であった。決して派手ではないが、組織にとって最もインパクトのある偉大な仕事をやり遂げた

郁保四:役割に誇りを持ち、全うすることの美しさを見せてくれた

晁蓋:あなたは一人の男として魅力にあふれていた。それが、結果的に頭領たらしめていたのだと思う

宋江:弱くて強い。何もないがすべてを包み込む。魯達が海なら、宋江は海をも包む地球のような存在か。最期の揚令とのシーンは、登場人物たちが感じていたであろう、あなたの頭領としての魅力を、ぼくも直接感じることができた

 そして、揚令。お前が登場するとそれだけで涙が出そうになることが少なくなかった。揚志の最期が常に頭にあったから。親子関係になぞらえて、自らの子どものように感じていたのかもしれない。