『夢の守り人』上橋菜穂子著

夢の守り人 (新潮文庫)

夢の守り人 (新潮文庫)

 『精霊の守り人』「闇の守り人』に続く、「守り人」シリーズの第3弾。読みやすいが、決して幼稚でなく、大人もつい惹き込まれてしまうファンタジー。書き手の視点でみると、これほど一般的な名詞、言葉遣いで世界を描けてしまうことに驚く。

「おれにはね、人がみんな、〈好きな自分〉の姿を心に大事にもっているような気がする。なかなかそのとおりにはなれないし、他人にはてれくさくていえないような姿だけどね。
 少なくとも、おれはその姿をもって生きてきた。そして、どうしたらいいかわからない分かれ道にやってきたら、どっちに歩んでいくほうが〈好きな自分〉かを考えるんだ」(主人公バルサの幼なじみで、大呪術師トロガイの弟子で薬草師であるタンダの、かつてともに苦難を切り抜けた皇太子チャグムに対する言葉)

「飛ぶ力はお前が生きたいと望む力だ。苦しみも闇も、突っきって飛び続けろ。おまえには、その力がある。……おれも、バルサも、それをよく知ってるよ」(同上)

「種でありさえすれば、どんな色、どんな形へでも変化(へんげ)するけれど、石に変わることはない。これはね、その性格に合うものでありさえすれば、夢に描くことで、いくらでも姿を変えるものなのさ」(トロガイの、放浪の歌い手で〈木霊の想い人〉であるユグノに対する言葉)