『新アラビア夜話』スティーヴンスン著 南條竹則・坂本あおい訳

新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫)

新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫)

 著者は『宝島』のスティーヴンスン。ボヘミアの王子フロリゼルが関わる七つの物語。ミステリアスな冒険譚を通じて描かれる、個性的な登場人物の人物像と人生模様。
 なお、解説によると、作者が“アラビア夜話”という題名を付けたのは、英国の首都をアラビアの都バクダッドに見立て、お忍びで夜の冒険を求めるフロリゼル王子とジェラルディーン大佐を教主(カリフ)ハルン・アル・ラシッドと腹心の大宰相になぞらえる趣向、とのこと。

<目次>
自殺クラブ
 クリームタルトを持った若者の話
 医者とサラトガトランクの話
 二輪馬車の冒険

ラージャのダイヤモンド
 丸箱の話
 若い聖職者の話
 緑の日除けがある家の話
 フロリゼル王子と刑事の冒険

「泣いている場合じゃない。君は何をしたんだ?どうして部屋に死体があるんだね?隠さずに話してみなさい。力になれるかもしれん。わたしが君を破滅させたがっていると思うかね?この死肉の塊が君のベッドに寝ているからといって、君に抱いていた親愛の情が、ちっとでも変わると思うかね?馬鹿正直な若者よ。理不尽で不当な法が一つの行為を恐ろしい罪悪と見るとしても、それを行った人間が、愛する者の目に汚らわしく映るなどということはないのだ。たとえ親友が血の海からずぶ濡れになって上がって来ても、わたしの友情は少しも変わらん。さあ、立ちなさい。善も悪も妄想にすぎない。この世にはただ運命があるだけだ。それに、どんなに追いつめられていても、最後まで君の見方をする人間がそばにいるじゃないか」(「医者とサラトガトランクの話」より、ノエル博士の言葉)

「あなたのしたことは正しかった」とフロリゼルは言った。「あなたの感情は適切にあなたを導いたのです。いつか今宵の災難に感謝する時が来ますよ。人間はね、スクリムジャーさん、数えきれないほどの面倒に巻き込まれるかもしれないが、心がまっすぐで理性に曇りがなければ、恥を蒙らずに困難から抜け出すことができるものです。(略)」(「緑の日除けがある家の話」より、フロリゼル王子の言葉)